令和元年度 開催分

 

 令和元年度 第3回「知っておきたい抗がん薬の副作用」

 

開催日:2019年11月19日(火)
開催場所:当院 9階会議室A

 

近年、がん薬物療法は急速に発展しています。がん専門薬剤師は、常に薬剤の最新情報をキャッチし、患者さんによりよいケアを提供できるように努めています。今回は、抗がん薬の副作用とはどういうものなのか、また医療従事者への症状の伝え方についてお話しし、最後に参加者からの具体的な質問にお答えする形で行いました。

 

講師:
東加奈子(がん専門薬剤師)
望月かおり(がん専門薬剤師)

 

抗がん薬の種類について

抗がん薬は以下の4つに分けられます。

 

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「副作用」とは何かを知る

副作用とは、「薬を通常の用量で人に使ったとき、薬によると考えられる意図せぬ有害な作用」と定義されています。よって、薬以外で起こる症状や検査値異常などは有害事象と言い、副作用とは言いません。
私たち医療従事者は、治療中に生じる不快な症状や検査値異常を引き起こす原因を調べる探偵のような役割です。その原因によって対処策が異なるため、原因が抗がん薬なのか、それ以外によるものかによって、対応策を考えます。そのためには、症状が起こった状況などを詳しく把握することが必要になってきます。

 

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医療者への症状の伝え方のコツ

痺れや吐き気、倦怠感は血圧や体温のように測定できないため、皆さんに教えていただくしかありません。教えていただいて初めて、その不快な症状を引き起こした原因が何かを予想できるのです。皆さんから教えていただく言葉が重要なヒントになるため、できるだけ正確に医療者に伝えていただく必要があります。 症状を伝える時、まず「症状が出たのがいつからだったか」を教えてください。例えば、「一週間前は大丈夫だった」という場合、一週間前に抗がん薬を投与していれば、抗がん薬が影響しているのかもしれないというヒントになります。
もう一つ重要なのは、症状を伝えることです。特に、「症状の程度」、「症状が起こる頻度」、「生活への妨げの有無」の3つを軸にして症状を伝えましょう。ご自身の感覚で構いませんので、この3つについて、5段階で教えていただけるとよいと思います。
「生活への妨げ」については、皆さんが日々、どのような生活を送っているのかについても教えていただくとさらによいでしょう。例えば、軽度の痺れであっても手を使う職種の方にとっては大きな支障があるでしょうし、程度は低くても下痢の症状があれば、通勤時間が長いと途中下車しなければならなくなるといった問題が生じます。症状が軽くても生活への妨げが大きい場合は、薬剤師から薬の処方について医師に提案することができます。

 

活発に行われた「 質問タイム 」

お話に続いて、後半は参加者の方々からの質問にお答えしました。
抗がん薬の副作用に対する対処法や日頃気になっていることなど、以下のような質問が寄せられました。

副作用の辛い症状を伝えていただくのは、医師以外でも構いません。看護師、薬剤師など、ご遠慮なくお伝えください。

 

 

 令和元年度 第2回「乳がんとうまく付き合うために~からだ・こころ・くらし~」

 

開催日:2019年9月10日(火)
開催場所:当院 新病院8階 総合腫瘍センター がんサロン

 

乳がんは、治療と経過観察の期間が長く、10年以上の通院を要する疾患です。したがって、乳がんを罹患された患者さんはこの期間、治療や経過観察を行いながら、生活を送り育児や仕事をしていくことになります。近年、ますます乳がん患者さんが増える傾向にある中、必要なのはどのようにすれば、この期間を乳がんとうまく付き合っていくかということです。生活の質を落とさず自分らしく暮らしていくことが大切です。今回は医療従事者が行っているサポートについて、乳がん看護認定看護師がご説明しました。

 

講師:
三原由希子(乳がん看護認定看護師)
志賀圭子(がん相談窓口・保健師)
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)

 

乳がん患者に限らず、がん患者さん全てにお伝えしたいのは、がんに罹患しても、より良く生きること、自分らしく生きぬくことを大切にしていただきたいということです。

 

乳がんであることを受け止めて、自分で決める

乳がん患者さんに限定してお伝えするとすれば、こうした考え方を踏まえて「乳がんであることを受け止め」て、「自分で決める」ことが大事であるということです。乳がんは治療と経過観察に長い期間を要します。その間、治療を受ける病院の選択から始まり、手術の方法(乳房の温存・乳房切除)、術前化学療法、乳房の再建、術後補助療法、再発・転移後の治療法の選択(化学療法・内分泌療法・症状緩和・療養場所など)、それらの治療と仕事や育児との両立、結婚や出産などライフイベントとの調整など、決めていけなければならないことが多くあります。

 

なぜ自分で決めることが大切なのかというと、①自分で決めることにより患者さん自身が納得できる選択をする中で、自分の疾患の状態をしっかり受容し、がんとともに生きていくための自信がつく、②乳がんの治療や療養生活に関する理解を深めることができ、自分を取り巻く状況の変化に正しく対処できるためです。

 

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自分1人で悩まずに「看護相談外来」に相談を

自分で決めていく為には、正しい情報や一緒に考えることができる存在も重要です。そうした場合にお役に立てる場所の一つが乳腺科の「看護相談外来」です。私たち乳がん看護認定看護師がそうした悩みや相談にお応えしています。原則的には事前予約が必要ですが、乳腺科の医師や看護師・受付、化学療法センターの看護師にお気軽にお声をお掛けください。

 

乳がん患者さんの悩みで多いのは、アピアランス(見た目、外見)についてです。乳房手術による乳房の喪失・変形、化学療法・内分泌療法による脱毛、薬物療法による皮膚障害・爪障害、放射線療法による皮膚障害、手術や化学療法によるむくみなど様々なアピアランスに関する悩みがあります。見た目の悩みは、社会生活への意欲にも大きく影響します。

 

看護相談外来ではこうした悩みのご相談に関してもお応えしています。乳房の変形を補整するための下着を探すお手伝い、皮膚障害や爪障害に対する根拠のあるケアのご紹介、さらにはリンパ浮腫の予防や発症した後のケアの方法、周囲の理解を得ることが難しい内分泌療法の副作用に関するご相談にもお応えしています。

 

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リプロダクションセンターと遺伝子医療の保険診療がスタート

乳がん治療に関連する情報として、東京医科大学病院は新病院移転に伴い、不妊治療専門の「リプロダクションセンター」を設置したことをお伝えしたいと思います。 がん治療の場合、その内容によっては卵巣・精巣の性腺機能不全をきたしたり、子宮・卵巣・精巣など生殖器の喪失により、将来、子どもを持つことが困難になることがあります。

 

そこで、将来の出産を希望される患者さんのために、乳がん治療を始める前に受精卵や卵巣の一部を保存しておくなどの方法による「妊孕性の温存」を検討することができます。リプロダクションセンターでは、乳がん治療の主治医が、その患者さんの治療と、治療による卵巣機能への影響、治療の計画、再発のリスクなど様々な角度から妊孕性の温存について検討するとともに、産婦人科の医師に妊孕性温存の適応や方法などについて相談します。

 

また、東京医科大学病院では遺伝子医療の保険診療が始まります。遺伝性乳がんでは、再発乳がんに対して治療の選択肢が1つ増えることになります。しかし、遺伝子検査で遺伝性乳がんと診断された場合、当然、ご家族への影響が出てきます。ご家族への説明や不安を軽減すること、適切ながん検診を定期的に受けるなどの対応も必要となってきます。その為に、遺伝子に関する相談ができる診療体制が始まりました。

 

乳がんに関する情報が多く飛び交っています。その中のどれが正しい情報で、どれが科学的根拠に乏しい情報なのか判断するのは困難です。そうした情報に惑わされたり納得できない選択をしたりする患者さんやご家族も多くいらっしゃいます。まずは、情報をどこから得ればいいのか、ぜひ、先ほど申し上げた「看護相談外来」のご利用や、がん相談窓口においでください。私たちは、みなさまのお役に立てるよう活動しています。

 

 

 令和元年度 第1回「治療に負けない身体をつくろう」

 

開催日:2019年5月14日(火)
開催場所:当院本館6階第2会議室

 

がんの治療を継続する、予後を良好な状態にする、日常生活をできるだけ支障なく過ごすためには、治療に負けない身体を維持することが必要です。そのためには適切な栄養摂取を行うことが大切です。しかし、放射線療法や化学療法などの副作用による食欲不振や胃の不快感などで食事が摂りにくくなって必要な栄養が摂取できなくなることや、体重減少などの低栄養状態になる恐れもあります。今回は、管理栄養士が治療に負けない食事の摂り方についてお話ししました。

 

講師:
杉山恵子(管理栄養士)
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)
志賀圭子(保健師・介護支援専門員)

 

初めにがん患者さんの低栄養問題をご説明しましょう。これには大きく3つの理由が挙げられます。

 

(1)がんによる全身的な炎症反応により代謝が進み過ぎて、体脂肪や筋肉のたんぱく質が減少し体重が減少する

(2)手術や化学療法、放射線療法などの副作用により食欲不振が起こり、栄養摂取量が減少する

(3)適切な栄養摂取への関心が低いことで、低栄養状態であることを認識できない

 

こうしたことが、がん治療の継続を困難にしたり、予後を不良にしたり、QOLの低下につながります。

 

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ですから、体の調子が良い時は、できるだけ毎食、主食(ごはん、パン、めん)と主菜(肉・魚・卵、大豆製品)、野菜(きのこ・海草・こんにゃくも含める)を食べ、また毎日、乳製品(牛乳・ヨーグルト)と果物を摂るようにして、栄養摂取に心掛けて体重の減少を防ぎましょう。

 

しかし、放射線療法や化学療法などの副作用による食欲不振や気持ちの悪さ、胃の不快感などで食事が摂りにくくなることがあります。その場合には、無理に食べようとしないでいいです。1日中そうした状態が続くことはないと思いますので、気分が良くなったら食べられるだけ食べるようにしましょう。ただし、食べられるようになったからといって、無理してたくさん食べるとまた気持ちが悪くなることもあるので、腹5~6分目にしてこまめに食べることをおすすめします。また、食べると不快感が悪化するものは食べるのを控えるようにしましょう。消化に悪いものや刺激の強いものも控えましょう。不足するカロリーを栄養補助食品などで補助するのもよい方法です。

 

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では、食べやすく、栄養摂取がしやすい食品についてご説明します。たんぱく質を摂取するための主菜では、蒸し魚、煮魚、刺身、冷しゃぶ、うなぎ、茶わん蒸し、玉子豆腐、温泉玉子、あんかけ豆腐が挙げられます。ビタミンやミネラルなどを摂るためには、野菜スープやなめこおろし、長いも梅肉和え、とろろ、ポテトサラダ、もずく酢、味噌汁、とろろ昆布汁。その他、果物やヨーグルト、プリン、生クリーム、アイスクリームなどもよいでしょう。

 

しかし、体調がすぐれなくて料理を作るのが困難な時には、コンビニやスーパーで売っている半調理の食材を組み合わせて料理を作ってみましょう。例をご紹介します。

このように手間を掛けないようにする方法もあるので、無理のない料理でできるだけ栄養を摂取するようにしましょう。
入院中であれば病棟にいる担当の管理栄養士にお気軽にお声掛けください。外来通院中の方は担当医師にご相談になるか、総合相談支援センターにご相談ください。