平成29年度 開催分

 

 平成29年度 第5回「緩和ケアについて」

 

開催日:2018年3月12日(月)
開催場所:当院本館6階第2会議室

 

緩和ケアの考え方で「アドバンス・ケア・プランニング」という言葉が注目されるようになっています。将来の意思決定能力の低下に備えて、今後の治療や療養について患者さんやご家族と医師などの医療スタッフが話し合うプロセスのことです。患者さんがより豊かな人生を送るために、周りの人たちのサポートは不可欠です。今回は最新の緩和ケアの考え方についてお話しました。

 

講師:
田上正(緩和医療部 部長・医師)
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)
志賀圭子(保健師・介護支援専門員)

 

ところが、2002年の定義では緩和ケアとは「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族のクオリティー・オブ・ライフを改善する」取り組みとなりました。患者のみが対象だったところに家族が加わりました。

言い換えると、1989年では「治癒を目指した治療」が有効である間は治療を行いますが、有効でなくなると、ある日突然、緩和ケアに移るという時代でした。しかし、2002年からは緩和ケアはがんと診断された時点から始まることになりました。

 

この時期の緩和ケアとは、自律性の保持、つまり、できるかぎり長く自分のことを自分でできるように支えること、そして、苦痛からの解放をサポートすることです。

がん患者さんは多くの場合、ある時点までは日常生活の能力はほとんど低下しません。しかし、亡くなる数カ月前から急に病態が悪化することが多いのです。1989年の緩和ケアは、この病期に集中して施されるものでしたが、2002年の緩和ケアはがんと診断されると同時にスタートします。

 

アドバンス・ケア・プランニング

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、将来見込まれる患者さんの意思決定能力の低下に備え、今後の治療や療養について患者さんやご家族と医師などの医療スタッフが話し合うプロセスのことです。
終末期に近付けば近付くほど、患者さんは何も考えられない、人と言葉をかわすのも嫌、意思を決定することもできなくなるなどの「倦怠感」を経験します。患者さんご本人の代わりにご家族が意思決定を担うことが多くなります。
ですから、そうした段階になる前に、患者さんとご家族、医療スタッフが「患者さんの現在の気がかり」「患者さんの価値観や目標」「現在の病状や今後の見通し」「治療や療養に関する選択肢」などを繰り返し話し合うことが大切です。

このように、2002年の緩和ケアは、がんと診断されてから終末期まで切れ目のないケアを行います。

 

がんサロン

 

東京都緩和ケア連携手帳~わたしのカルテ~

患者さんの考えていることをまとめるために非常に役立つツールがあります。東京都福祉保健局が発行している冊子「東京都緩和ケア連携手帳~わたしのカルテ~」です。この中に「わたしが大切にしたいこと」というページがあります。「あなたが医療・介護担当者に知ってほしいと思うことをお伝えください」とあり、記入するようになっています。
内容は、あなたが特に大切にしたいと思っていること/これだけはしたくない、してほしくないこと/心配なこと、気がかりなこと、困っていること/医師からの説明を誰に一緒に聞いてほしいか/意思決定が難しくなった場合、代わりに行ってくれる人は誰か/病気の説明はどこまでくわしく聞きたいか/病状が悪化したらどこで療養したいかなどのほか、命に関わる急変が起こり回復の見込みがないと医師が判断した場合、心肺蘇生術を希望するかという設問もあります。
「お気持ちが変わったら、書き直していただいても構いません」との但し書きがあるように、その時点での気持ちによって書き直すことで、ACPが提唱する繰り返しの話し合いを代行できることになります。

 

この冊子はインターネットからダウンロードすることができますが、ご希望の方は主治医または緩和医療部、がん相談窓口に気軽にご相談ください。

 

 開催報告:平成29年度 第4回「ホスピスについて」

 

開催日:2017年11月30日(木)
開催場所:当院本館6階第1会議室

 

患者さんの身体や心に伴う様々なつらさ、また、患者さんをサポートするご家族のつらさをやわらげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくことが「緩和ケア(緩和医療)」です。そして、緩和ケアを専門に行う施設の一つがホスピス(緩和ケア病棟)です。実際にホスピスをお考えになった時に役立つように、今回はホスピスについてご説明致します。

 

講師:
遠藤光史(緩和医療部 医師)
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)
志賀圭子(保健師・介護支援専門員)

 

ホスピスではどのような治療を受けるのか?

がん患者さんが受けている手術、抗がん剤、放射線治療などは「積極的治療」と呼ばれます。しかし、ホスピスはこうした積極的治療は行わないことを原則としています。ただし、全身状態を維持するために必要な画像検査や血液検査、輸血や点滴などの治療は行います。また、必要に応じて症状緩和のための外科的治療や放射線治療が行われることもあります。いわゆる民間療法(保険外診療)については、ホスピスとしては積極的に行わないことが多いです。

 

時々、患者さんやご家族が直接ホスピスに出向いて入院を相談することがありますが、現在の主治医の紹介状がないとホスピスは対応できませんので注意が必要です。なお、患者さんやご家族が自らホスピスの情報を知るには、「日本ホスピス緩和ケア協会」などのホームページをご覧いただくと、ご希望の地域のホスピスを探せるほか、今回お話している内容についても詳しく紹介されています。

 

ホスピスに実際に入院するにはいくつかのステップを踏む必要があります。

最初にホスピスの医師、看護師、ソーシャルワーカーと30分~1時間ほど面談し、ホスピス側から施設や緩和ケアの説明を受けるとともに、患者さん・ご家族が病気についてどのように考え、今後どのように療養したいかなどをお話していただきます。それをもとに、ホスピス側が受け入れ可能かを判断致します。この時の判断基準の一つは、「手術や抗がん剤などの積極的治療を行うより、苦痛症状の緩和を優先する緩和治療を行う方が適切である」ということです。ただし、あくまで対象は、「悪性腫瘍または後天性免疫不全症候群(エイズ)」の患者さんです。また、患者さんに「告知」され、患者さん自らが意思決定できることが必要な場合が多いです。

 

がんサロン

 

入院までどのくらいの期間待つのか?

ホスピスの病床の空き具合、または患者さんの病状によってかなり違います。まず前述の面談を受けるまでにおおよそ1週間から1カ月ほどかかります。面談の結果入院が決定した場合、入院までには病状によってかなり違いますが、数日から1ヶ月ほどかかります。
ホスピスへの入院待機期間中は、患者さんは、それまで治療を受けていた病院に引き続き受診したり、入院予定の病院の外来(緩和ケア外来)に受診したりします。また、訪問診療などを受けながらご自宅で過ごすことも出来ます。

 

ホスピスの入院費用は?

例えば、3割負担の患者さんで、30日以内の入院では1日当たり1万4,778円です。1ヶ月で総額44万3,340円となります。1日当たりの入院料は、31~60日以内では1万3,200円、61日以上では9,900円と変わります。このほか、食事代として標準負担額1食当たり360円や、有料個室であれば個室料、雑費などが別途かかります。ただし、「高額療養費制度」など医療費の負担を軽減する制度がありますので、がん相談窓口に相談して下さい。

 

ホスピスをお考えになったら、まずは主治医とがん相談窓口に相談して下さい。患者さん・ご家族のご希望に沿ってサポート致します。

 

 開催報告:平成29年度 第3回「お金と暮らし」

 

開催日:2017年9月12日(火)
開催場所:当院本館6階第2会議室

 

日本では20~64歳のいわゆる就労可能年齢の人たちのがん罹患率が高いというデータがあります。通常ならば働き盛りであったり、家族を養ったりという状況なのに、治療のために会社を休む、または会社を辞めるとなると治療費や生活費に直結する問題となってしまいます。そのため、がん治療の継続を断念したり、薬の処方を遅らせたりする患者さんもいるという調査結果もあります。そこで今回はこうした経済的負担の問題を軽減するための主な公的制度を、がん相談窓口の医療ソーシャルワーカーが説明しました。

 

講師:
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)
川島美由紀(看護師長・がん看護専門看護師)
志賀圭子(保健師・介護支援専門員)

たとえば、70歳未満で所得が210万円以上600万円未満の人が、肺がん治療に用いられるザーコリという薬を使用するケースでご説明します。

ザーコリは1錠当たり約1万1,700円です。これを1日2錠服用すると、1カ月の医療費総額としては約70万円かかります。医療保険3割負担の場合、1カ月21万円の自己負担がかかるということになります。これを毎月支払い続けることは生活を圧迫しますよね。高額療養費制度を活用すると、70歳未満で所得が210万円以上600万円未満の人の自己負担限度額は8万1,000円+(総医療費-26万7,000円)×0.01ですから、仮に自己負担額が8万5,000円とすると12万5,000円負担が軽くなるわけです。負担を予め軽くするためには、各保険者にて「限度額適用認定証」を取得しておく必要があります。なお、この制度が適用されるのは保険が適用される薬や治療のみで、自由診療の場合は適用されません。

 

 

がんサロン

 

次は「障害年金」です。病気やけがが原因で生活や仕事に障害を来した時、生活を保障するために支給される年金です。申請できるのは原則、初診日から1年6カ月経過した日で、この日を障害認定日といいます(身体状況により例外あり)。認定が受けられる条件として、①公的年金制度が定める1級および2級の障害があること、②初診日の前々月までの加入期間のうち、3分の2以上の期間、保険料を納付していることなどがあります。

 

がん患者さんの場合、治療の副作用による倦怠感・悪心・嘔吐・下痢貧血・体重減少などの全身衰弱等がある場合、初診日から1年6カ月後に申請の可能性も出てきます。ただし、「がん」ということだけでは年金は支給されません。がんに起因する障害であり、その障害自体に対する生活保障ということが障害年金の基本的な考え方です。申請窓口は自治体の保険年金課や年金事務所です。

もうひとつ、「生活保護」という制度があります。利用できる制度や保障を使っても、生活保護法で規定する最低生活費に満たない場合、受給の対象となります。

以上のような悩みを抱えた方はぜひ、当院医療ソーシャルワーカーへご相談ください。お役に立てるよう一緒に考えたいと思います。また各制度には各々の条件がありますので、医療ソーシャルワーカーや各窓口にお問い合わせください。

 

お金のために治療ができない、治療のために経済的に追い詰められることのないよう、一緒に考えていきましょう。複雑な仕組みをお一人で調べることは大変根気のいる作業です。頼れる先に頼りながら治療に臨みましょう。

 

 開催報告:平成29年度 第2回「がん患者さんのための夏バテ予防の食事」

 

開催日:2017年7月11日(火)
開催場所:当院本館6階第2会議室

 

連日の猛暑のため、健常な人でも夏バテになってしまう今の季節、病気療養中のがん患者さんは特に注意を要します。夏バテを防ぐためには、日頃から行っているがん治療のための食事の仕方を、より一層きちんと守ることが大切です。食事を通して患者さんをサポートしている管理栄養士ががん治療のための食事の仕方をご説明しました。

 

講師:
浦上理絵(管理栄養士)
川島美由紀(看護師長・がん看護専門看護師)
志賀圭子(保健師・介護支援専門員)
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)

 

また、食事量が少ない方のために、少量の食事で高カロリーに出来る粉状のエネルギー補給食品(カロアップ)もあります。カロリーは砂糖と同じ量で甘みは10分の1ですので、こうしたものを利用する方法もあります。


参加者の方々からも様々なご質問が寄せられました。


Q1. 手術で胃が3分の1になりました。初めての夏を乗り切るために効率の良い栄養の摂り方を教えてください。

A1. 一度にたくさん食べられないので、分割食をお勧めします。いつもの半分量の食事を1日5~6食摂るイメージです。10時、15時、20時などの間食時に栄養補助食品や濃厚流動食を利用するのも良い方法です。


Q2. 免疫力を高める食事や食べ物を教えてください。

A2. 残念ながら食事の特効料理はありません。しかし、免疫力を高める栄養素としては、抗酸化作用のあるビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、オメガ-3系脂肪酸などがあります。これらはサバ、サケ、サンマ、マグロなどの魚や、緑黄色野菜、果物などに多く含まれているので、これらの食品をバランス良く摂りましょう。


Q3. 食べない方が良い食べ物、積極的に摂った方が良い食べ物があれば教えてください。

A3. 特定のものを制限すると偏った食事となります。食べすぎもよくありません。また、前述の魚や緑黄色野菜、果物なども、そればかりを食べ続ければ良いということではありません。普段食べる機会の少ない食品であれば、サバやサケは週1回、果物は2日に1回程度メニューに組み込んでみてはいかがでしょうか。


Q4. 添加物について教えてください。

A4. 添加物は摂らないに越したことはありませんが、添加物だけが原因でがんになるわけではありません。日本で使用が許可されている添加物は、長期間摂取し続けても人体に影響はないとされています。

 


最後に、がん患者さん向けの料理の試食会が行われました。食事に関してのご相談は、入院中は病棟に担当の管理栄養士がいますので、お気軽にお声をおかけください。外来通院中は栄養相談室で栄養相談を行っています。依頼状が必要なので担当医師にご相談ください。

 

 開催報告:平成29年度第1回「乳がんとうまく付き合うために~からだ・こころ・くらし~」

 

開催日:2017年5月9日(火)
開催場所:当院本館6階第2会議室

 

乳がんに罹患する人は日本人女性の中では40代の方が最も多く、子育て中であったり仕事でも重要な役割を担っている時期と重なることから、生活と治療を並行して行うことが求められます。がんに囚われるのではなく「自分らしく生きる」ことが大切です。今回は治療中の患者さんが乳がんとうまく付き合うためのポイントを乳がん看護認定看護師がご説明しました。

 

講師:
三原由希子(乳がん看護認定看護師)
川島美由紀(看護師長・がん看護専門看護師)
志賀圭子(保健師・介護支援専門員)
小川絢多(がん相談窓口・医療ソーシャルワーカー)

 

昨年、約100件の看護相談が寄せられました。相談内容としては「告知を受けた後の混乱や不安」、「治療をどのように決めれば良いか」、「乳房喪失をどのように受け止めれば良いか」のほか、さきほど述べたような生活と仕事のこと、また、再発の不安などの相談もメンタルな相談が多いです。

 

 

 

一方で、看護相談に寄せられるものとしてアピアランス(見た目)に関する相談も多いです。「乳房手術による乳房の喪失・変形」、「化学療法・内分泌療法による脱毛」、「薬物療法による皮膚障害・爪障害」、「放射線療法による皮膚障害」、「手術や化学療法によるむくみ」など治療を行っている過程で生じる見た目の変化への対応は積極的に行いましょう。外出する時、仕事に行く時、人と会う時、自信を持って行動するためには見た目が大切です。それが、「自分のために生きる」ことを支える原動力となります。われわれ認定看護師はそのための相談にもお応えします。

乳房を補整するための人工乳房(シリコン、コットン、ウレタンなど)やブラジャーなどさまざまな種類を様々なメーカーが販売しています。また脱毛についても、髪の毛だけでなく眉毛や睫毛などのケアについてもアドバイスできます。髪の毛についてはウィッグが主体となりますが、なかなか合わないという方がいます。そのためにはウィッグの店で納得のいくまでサイズ合わせと試着を行いましょう。眉毛は抜けてしまう前にメイクの練習をしておきます。睫毛は付け睫毛を使用しても問題ありません。爪の変色はマニキュアで補整しましょう。使用するマニキュアも国内メーカーのものであればホルマリンやトルエンの心配はほとんどありませんので使用してかまいません。

お母さんががんであることを、お子さんにどのように伝えるかということも大切なことです。看護相談ではそうしたアドバイスもさせていただいています。お気軽に乳腺科外来の看護相談においでください。乳がん看護認定看護師が一緒に考え、納得のいくお手伝いをさせていただきます。